アンビエント型インイヤーモニター「Westone AM Proシリーズ」レビュー <岩井 喬氏>

2016年07月公開

オーディオライター 岩井 喬氏によるWestone AM Proシリーズレビュー

ただサウンドバランスを整えてその音を送るだけでは100%のパフォーマンスを引き出すことはできない

インイヤーモニター(以下、IEM)がライブステージで欠かせない現在のシーンにおいて、カナル形式で密閉された装着方法によって遮音性が高いからこそ問題となるのが、観客の歓声や反応、会場内の響きなどのアコースティックな要素を聴きとることができない点にある。録音の世界でも同じだが、モニターの難しいところはただサウンドバランスを整えてその音を送るだけでは100%のパフォーマンスを引き出すことはできない。音楽という“生もの”を扱う以上、ライブという限定された空間で時間を共有するという貴重な体験において、オーディエンスの反応を受けて演奏も変化してゆくものであり、その反応をIEMの存在が遮ってしまうことで熱も冷めてしまう。もしくは演者側が余計に気を使うが故にパフォーマンスも低下してしまうという“負の連鎖”が起こり得るのだ。

AM Proは、きちんとサウンド再生を行いつつ、聴き取りたい外部の音も取り込める、アンビエント型モニター

AM Proロゴ

ライブ録音の現場ではオーディエンスの歓声を拾うマイクが用意されるが、通常のライブでそうしたマイクが設置されることはまれだ。だからこそアーティストはライブ中IEMを外して観客の声に耳を傾けるようなしぐさを見せるのである。本来モニターはそうした点に気を遣わせず、アーティストに対し自然にパフォーマンスをしてもらえるように音を届けるものであるべきだ。だからこそ、AM Proのようなモニターとしてきちんとサウンド再生を行いつつ、聴き取りたい外部の音も取り込める、アンビエント型モニターが必要とされるのである。AM ProシリーズはWestoneでも人気のユニバーサル型モデルUM Proシリーズをベースとした構成、サウンドとしており、バランスド・アーマチュア(以下、BA)型シングルウェイのAM Pro10、高域/低域用2基のBA型ドライバーを積む2ウェイのAM Pro20、そして高域/中域/低域を独立したユニットで再生するBA型3ウェイのAM Pro30がラインアップに並ぶ。

特許技術「SLEDテクノロジー」は入力されたサウンドの信号と周囲の環境音をシームレスに再生

通常の開放型モニターが外部の音を聞こえやすくするため、中低域方向の再生周波数レスポンスを下げた設計としたものが多く、一般的なIEMとはサウンドバランスが異なり使いにくい側面があった。しかしAM Proシリーズの特徴である特許技術「SLEDテクノロジー」は、周波数レスポンスを下げることなく、入力されたサウンドの信号と周囲の環境音をシームレスに再生することができるので、音質的にもバランスが取れており、通常のIEMと同じ感覚で使用できるのである。これは不要な周波数をカットする「TRUオーディオフィルター」の効果が高く効いており、不要な騒音などの環境音はカットし、バンドの音や歓声などの欲しい環境音だけを通過させる特別なものだ。この技術はリスニングだけ楽しむというユーザーにとっても有益であり、密閉カナル型の窮屈な音場感や圧迫感が苦手という方にとっては程よく空間が広がり、自然な音場感とともに音楽を楽しめるのである。ただし、遮音性・音漏れの点に関しては完全密閉ではないため、気を遣う必要はあるだろう。

圧迫感なくすっきりとした素直なサウンドのAM Pro 10

AM Pro10
※AM Pro 10

まずAM Pro10を聴いてみたが、圧迫感なくすっきりとした素直なサウンドで、管弦楽器やピアノなど、清々しく響きわたる。スカッと爽快な音ヌケ感で、適度な密度を持つ音像の鮮やかな描写性が際立つ。ナチュラルな音色で、ボーカルは程よい太さと口元のハリを持たせた軽快で分解能の高い傾向を持つ。キックドラムとベースの描き分けも明確で、低域はアタック感を中心としたソリッドなサウンドである。

AM Pro10の素直さをベースとして、より高域方向のエナジー感を強めた AM Pro 20

AM Pro20
※AM Pro 20

続いてAM Pro20であるが、AM Pro10の素直さをベースとして、より高域方向のエナジー感を強めた印象だ。音像のボディ感はスマートな傾向で、密度良く引き締まった描写となる。AM Pro10ではややレンジ感が詰まった感触もあったのだが、こちらは高域のヌケがより良くなり、シンバルやピアノ、ホーンセクションの輝き感がより自然で爽やかになった・女性ボーカルのクールで艶やかな表現も色っぽい。音場の再現力も高く、余韻の階調性の細やかさ、広がり感も素直に描き出す。

音ヌケが段違いに高く、高域方向の素直さに差が出ている、フラッグシップのAM Pro30

AM Pro30
※AM Pro 30

最後にフラッグシップのAM Pro30だ。こちらは手元にベースモデルであるUM Pro30も所有しているので、その比較も行ってみた。UM Pro30も非常にバランスに優れ、音像の存在感や量感の良さを持つモデルであるが、AM Pro30の方がやはり音ヌケが段違いに高く、高域方向の素直さに差が出ている印象だ。それによって表現できる空間の広さにも違いがあるように感じられた。この点はUM Pro30を密閉型、AM Pro30をセミオープン型の特徴を持っていると捉えれば分かりやすい。

AM Pro30は肉付き良く、低域の太さも増してたくましい音像感を見せる。ピアノのハーモニクスもより細やかで、管弦楽器の旋律もより一層華やかだ。オーケストラの響きはゴージャスで、ジャズのホーンセクションはブライトに輝く。女性ボーカルの輪郭はハリ艶良くエッジが立っており、クリアかつ鮮明なタッチで表現。空間性も広く見通しが良い。全体的に解像感が高く、リッチなサウンド傾向である。

すでにUM Proシリーズを使っている、もしくはカスタムIEMを利用しているユーザーにとってもこのAM Proシリーズのサウンドは新鮮に感じることであろう。これまでのカナル型とは一味違う、ストレスなく自然な音場感とバランスの整った高密度な音像感を同時に味わえることが最大のメリットだ。様々なシーンで使いやすい新たなスタンダードモデルといえるだろう。

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