Westone Audio カール・カートライト氏に聞く、カスタムインイヤーイヤホンの絶対価値

2015年07月公開

【対談】Hi-Fi+ × Westone Audio サウンドデザイナー カール・カートライト氏

「イヤホン、カスタムIEMの技術を語る」(hi-fiplus.com)

Hi-Fi+インタビュアー(以下/Hi-Fi+):そもそもイヤホンとカスタムインイヤーイヤホン(CIEM)の設計に興味を持たれたきっかけは何ですか?この製品カテゴリーに魅かれた理由を教えてください。

ウォークマンによる携帯音楽の革命から、人々はカスタムメイドのイヤーピースを求め始めました

カール・カートライト氏(以下/カール氏):音楽が大好きだからです!音楽は聴くのも演奏するのも、私にとって非常に重要です。私が小さい頃、よく父がハーブ・アルパートとザ・ティファナ・ブラスのアルバムを聴き、クリスマス休暇用にコーラスやオーケストラのオープンリール式のテープを作っていたのを覚えています。もともと私はわずかな貯金をはたいて最高のステレオ機器を買おうとしていました。バンドで音楽をやっていましたし、古いオープンリール式のテープレコーダーで音を重ねたレコーディングをしていました。

80 年代半ばにソニー・ウォークマンの革命が起こったとき、人々の音楽の聴き方は劇的に変化しました。そしてその結果、音楽を聴く体験そのものが非常に個人的なものとなったのです。

ジョギングしたり、自転車に乗ったり、浜辺を歩いたり、以前では考えられなかった場所でみんな音楽を聴き始めました。ある大きな問題を除けば(カセットテープをたくさん持ち運ぶこと以外に)これは最高でした。その問題とはイヤホンが耳から外れてしまうことでした。

この時すでに、Westone社は補聴器、通信機器、聴力保護機器用のカスタムメイドのイヤモールドを販売しており、聴音医療産業で安定した地位を得ていました。その後まもなく人々は携帯音楽の問題解決策についてわが社に問い合わせをし、ウォークマンスタイルの小型イヤホンとしてカスタムメイドのイヤーピースを作り始めました。「カスタムメイドの小型イヤホン」を開発して間もなく、地元の工場から製品ラインでコミュニケーションに支障があるという相談を受けました。彼らはWestone社のカスタムメイドのイヤーピースを小型イヤホンと一緒に使っていましたが、アッテネーション不足によりチームメンバーがライン責任者の声を聴くのに苦労していました。この問題を解決するにあたり、小型イヤホンベースのシステムよりさらに聴力保護が可能なイヤーピースの必要性を理解しました。その解決策とは、第一に聴力を保護する役割を果たしながらもコミュニケーションができるイヤーピースでした。補聴器業界のバランスド・アーマチュア型のドライバーを用いて、完全閉塞イヤーピース内で設計することにより、私たちはこの工場で最も必要であった二つの事柄、クリアな音信号と聴力保護を兼ね揃えることに成功しました。

ステージ上のプロミュージシャン(デフ・レパード、ラッシュ、ヴァン・ヘレイン)のためのイヤーピース

その後まもなく、90年か91年にデフ・レパードとラッシュのワールドツアーに携わっているビル・クライスラーが私に連絡してきました。彼らはそれぞれ、ツアーが始まる前に解決しなければならないユニークな問題を抱えていました。デフ・レパードに関しては、ステージ音量が大きくなったためリードシンガーのジョー・エリオットがステージのギターアンプ越しにボーカルモニターを聴くことが非常に困難になってきていました。ラッシュに関しては、フロアモニターやドラム、ギターアンプ、サイドフィルといったステージのさまざまな信号源によって発生するミリ秒単位の遅れについての問題でした。工場の経験から学んだ原則を用いることで、私たちはイヤーピースが主要な聴音源になるまで耳の周囲音レベルを十分に下げることに成功しました。ジョー・エリオットは耳で自分の声を十分上げても、ギターアンプの音量に安全に対応できるようになりました。

耳のステージ音量を 25~30dB も下げることができたからです。ラッシュについては、ステージで様々な信号源からのスミアに対しモニター信号がクリアで正確な聴覚体験を可能にしました。

数年後リーボディ・システムズというステージ管理機器会社から連絡があり、ヴァン・ヘイレンが 1995 年ワールドツアーの準備中に直面していた問題への解決策を相談してきました。リーボディはこのツアーのモニター・エンジニアであるジェリー・ハービーを私に紹介しました。問題はアレックス・ヴァン・ヘイレンがカナル型モニターを使用していたのですが、ステージモニターと競い合うため音量をかなり上げており絶えず壊れてしまうということでした。デフ・レパードとラッシュのために開発した解決策を説明し、一度試してみることにしました。私たちはアレックスにバランスド・アーマチュア型のドライバーを用いた、取り外し可能なフェイスプレートを付けたイヤーピースを設計しました。これならドライバーが故障しても現場で交換が可能でした。

Westoenの「Ultimate Ears」の誕生と完全閉塞ユニバーサルフィットBAイヤホン

この初期コラボレーションから、WestoneのUltimate Eares(アルティメット・イヤーズ、以下UE)が誕生したのです!もともと当社は可動コイルとバランスド・アーマチュア型ドライバーを販売していました。しかし UE5 デュアルドライバー・イヤピースを発表したとき、バランスド・アーマチュア型ドライバーが厳しいステージ環境における理想的ソースであることがわかりました。数年後私たちはSHURE社と提携し、完全閉塞でユニバーサルフィットのイヤーモニターを開発しました。これは本来 PSM 600 ワイヤレスモニターシステムの発売に際して計画したものでした。ご存じのとおりその安定した数年間の間に多くの変化がありました。 Westone社やその他の企業にとって初めての経験もありました。これらの変化の中で一つだけ変わらないことがありました。それはバランスド・アーマチュア型ドライバーの完全閉塞イヤーピースが過酷な聴音環境において多くの人々に支持されていることです。

Hi-Fi+:新しい一流のイヤホン/CIEM 製品を作る際、どんな開発目標が念頭にあるのでしょうか?

一流のカスタムメイドやユニバーサルフィット製品では音質が最も重要

カール氏:一流のカスタムメイドやユニバーサルフィット製品では、音質が最も重要と考えます。その最優先事項が満たされないと、他はまったく無意味となります。

カール氏:Westoneの歴史を振り返ると、SHURE社に最初のユニバーサルフィット・イヤーモニターを製造する前、WestoneのUltimate Earsが誕生する前から、当社は過酷な聴音環境におけるバランスド・アーマチュア型ドライバーおよび完全閉塞イヤーピース使用の先駆者でした。ですからバランスド・アーマチュア型ドライバーは、我々が新しい設計を始めるときに最初に使うツールの一つなのです。しかし私はバランスド・アーマチュア型ドライバーであれ可動コイルであれ、特定の設計目標における問題を解決するために、それぞれの仕事に最適なツールや最高の技術を用いることが大事だと考えます。

ユニバーサルでも高い品質

Hi-Fi+:ユニバーサルフィットとカスタムフィットのインイヤー設計における比較メリットはどう思われますか?

カール氏:私はどちらも好きですし、ハイエンドのオーディオという観点ではどちらにも長所があると思います。Westone社はインイヤー設計で両方のタイプを作っている数少ない会社ですし、今までの実績を誇りに思います。CIEM はWestone社が初期から開発している伝統と歴史から自然と発展したものです。我々は 1959 年から人間の耳に合うカスタムフィットの製品を作り続けており、人間の耳の本質を理解するに至りました。ですが中にはカスタムフィットのイヤーピースの購入を考えない人もいます。しかし彼らにも高品質のオーディオ体験は可能であるべきです。CIEM の購入は実に面白い課題です。レビューを読み、様々な製品に関するオピニオンリーダーの意見を参考にしますが、ヘッドホンやスピーカーシステムのように「購入前に試す」ことができないからです。ユニバーサルフィットのイヤホンで、消費者は自分に最も合う音が出る製品を試すことができます。我々のWestone社製品に対するスタンダードは非常に高いため、人間の耳に関する理解をユニバーサルフィットラインの設計や適合性に取り入れています。ユニバーサルだからと言って、Westone社の音の特徴や適合性を再現するための妥協は許しません。

特定のデザインにどの種類のドライバー技術を使用するかは、アプリケーションで決まる

Hi-Fi+:あなたが設計に好んで使用する特定の種類のドライブユニットはありますか?そしてその理由は?

カール氏:特定のデザインにどの種類のドライバー技術を使用するか、まずアプリケーションが決断を左右します。デザインは高ノイズや低ノイズの環境で使用することになるのか?そしてエンドユーザーがこの製品に求めるものとは?それは厳しい環境での聴音、ライフスタイル、あるいは便宜品のために用いられるのか?さらにイヤーピースの設計には数多くの物理的要因を考慮する必要があります。挿入損失、カナル共振、内部電子およびアコースティック設計のパラメーターなどはほんの数例です。しかし私にとって全体的なモチベーションとなっているのは、イヤーピースがどの周波数帯においても耳触りな音やアグレッシブな音を出さないことです。デザインは繊細でありながら、かつあらゆる周波数帯が互いを支えあうような均一性を持たなくてはいけません。

バランスド・アーマチュア型ドライバーと可動コイルスピーカーを両方用いることで、私は幸運にも宇宙や戦闘機、戦場の兵士、ステージに立つミュージシャン、オーディオファンなど様々な場面で使用できる聴音製品を設計してきました。F22 ラプターパイロットの条件は非常に極端なもので、独自の設計課題の数々を乗り越えなくてはいけませんでした。オーディオファンには重力加速度 5g の戦闘操作に対応するイヤーピースは必要ありませんが、音質はパイロットのそれと同様に重要なものです。バランスド・アーマチュア型ドライバーには色々なサイズがあるので、デザインの柔軟性やパッケージングの観点で数多くのメリットがあります。これにより出力を音響的また電子的に制御できる沢山のユニークな方法があります。

理想有声音の 「ターゲットカーブ」について

Hi-Fi+:イヤホンや CIEM の理想有声音の 「ターゲットカーブ」について説明してください。

カール氏:Westone社の特徴は温かみがあって繊細ながら、露骨にアグレッシブな高音(これは一定の時間が経つと疲れてしまう場合があります)を含まない広がりのある音です。レコードを回したりテープを聞いたりしていた、いわゆる「チューブ時代」終期に育った私にとって、この温かみは故郷ですね。

Hi-Fi+:これまでのイヤホン/CIEM 製品の設計実績でトップの1、2を挙げるとしたらどれになりますか?あなたの視点からこれらの製品が特別になる理由は何ですか?

カール氏:最も重要な認識の一つは、まずイヤーピースを完全閉塞製品として取り扱い、耳の音響密閉の依存性を理解することにより、我々はバランスド・アーマチュア型ドライバーの最大限の可能性に気づいたことです。このコンセプトを最初に理解したからこそ、後にWestone社や他社が製品を開発できるに至ったわけです。

私は設計した一つ一つの製品に特別な思い入れがあります。特に最初の設計目標を超えた最終製品が生まれたときはなおさらです。スペースシップワンで使用する通信イヤーピースであれ、ユニバーサルフィットの W60 であれ、それぞれの製品から私はインスピレーションを得て何かを学ぶことができます。それが次の設計課題に生かされるのです。

最高の再現性を求める旅は終わらない

Hi-Fi+:個人的な楽しみで、どんな音楽を聴きますか?

カール氏:それは難しい質問ですね!私は本当にあらゆる音楽を愛しているので、何も聞かないと答えたほうが楽かもしれません。録音の新旧に関係なく、クラシック、ジャズ、プログレッシブ・ロック、ロック、ブルース、ワールド、ファンクなど様々な音楽を聴きます。優れた録音のクラッシック曲、ジャズの親密感、プログレッシブ音楽の質感などはいつも私を魅了します。音楽を聴くとき、私はアーチストの本物の音が聞きたいのです。オルガントリオで誰かがハモンドのベースペダルを蹴っている音、グランドファンクのライブアルバムでのメル・サッチャーのベーストーンの温かく浸透するファズ、フェンダー・テレキャスターの切れ味や威勢の良さ、古いミニムーグののこぎり歯といったものが、私をワクワクさせますね。私はミュージシャンとして最初にこれらの音に慣れ親しんだものだから、イヤーピースで再現したいと思うのです。

Hi-Fi+:今から 5 年後の高性能イヤホン/CIEM 市場はどうなっていると思いますか?

カール氏:今後デジタル式のイヤースキャンがカスタムメイドのイヤーピース作りに大きく貢献すると思っています。印象材を外耳道に注入する代わりにデジタル画像を当社に送信してもらい、仮想空間でイヤーピースを操作しながら最適なフィット感や快適性を追及することになるでしょう。

デジタル式のスキャン技術が向上し一般の人々が利用しやすくなると、カスタムフィット製品の可用性がさらに高まります。Westone社はこの技術の第一線におり、すでに 10 年以上もの間、耳の印象のデジタルスキャンからイヤーピースを製造してきました。

またワイヤレス技術が小さくなって行くにつれ、イヤーピースは音楽を聴く以上の多機能性を要求されます。

興味深いのは消費者がイヤーピースの音質に対して、必要なバッテリー寿命、伝送プロトコル、欲しい機能の数などを、どこまで妥協できるかという点です。私は今後集中していく傾向にある、二つの明白な消費者区分があると考えます。一つは便利性や日常生活の背景として音楽を携帯することに興味があるグループ。もう一つは音楽を聴くことに没頭し、最高の再現性を求めるグループです。IEM の設計には長期を要しましたが、まだ旅は終わっていません。この道の今後の方向性は非常に興味深いと思います。

出典:Hi-Fi+

INTERVIEW: KARL CARTWRIGHT, WESTONE
Master Designer discusses Earphone/CIEM Technology
http://disq.us/8o3pk5

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